スモール・フォレスト(Small Forest)はシドニー中心部から北西に約250km。豪州を代表するワイン銘醸地ハンターバレーの北西に位置するアッパーハンターバレーで、日本人女性がワイナリーを営む。スモール・フォレストは彼女の旧姓である〈小林〉に由来し、彼女のワインラベルには、実家の家紋でもあるという紫の藤の花のスケッチが描かれている。

ラドクリフ敦子は7年働いた大手醸造所ローズマウント(Rosemount Estate)を退社し、別の会社でワイン醸造に携わる。日本に一時帰国して日本酒造りの経験を積んだ後、ある鉱山会社からのオファーを受け、 2013年暮れにスモール・フォレストは設立された。

2014年の秋、スモール・フォレストにとって最初のヴィンテージを控えたタイミングで、アッパーハンターバレーをブッシュファイアー(山火事)が襲った。彼女と提携しているブドウ畑は直接、火の手からは離れていた。しかし延焼を防ぐために行われた人為的な野焼きが原因となって、収穫を間近に控えたブドウは煙にさらされた。結果として、提携していたブドウ園のブドウを用いてのワイン造りは諦めざる終えなくなり、豪州初の日本人醸造家による記念すべき初ヴィンテージは、オレンジ地区で買ったブドウから造られることとなった。

災難に見舞われた初ヴィンテージ、それに加えて自身で揃えた設備ではない環境、これまでの実績やネームバリュー、それまでに培ってきたスタイルが全くないところからのスタート。どのようにして、それらを作り上げていくかが彼女の課題であったが、四期に渡るワイン造りを通して彼女は進むべき方向性がようやく見え始めたと感じた。

また、彼女はワイン造りを支えてくれる地元の人達に対する還元や、プロモーション活動に取り組む。

「スモール・フォレストは地元で立ち上げた、実体のある会社ですので、地元に住むものとしての義務や責任があると思います。この土地があって、こういうブドウができ、だからワインが出来るのです。」

常に丁寧・誠実を心がけ、良いものを造る。しかし、いくら自分のワインに自信があったとしても、最終的に判断をするのは消費者であり、その判断の基準は品質や味でしかない。それに加えて、天候やブドウは年によって異なり、100パーセント満足できるワインというものは、なかなか造れない。だが彼女は最善と思える方法で毎年、ワイン造りを行えることに喜びを感じ、今後もより良いワインを造ることに励む。

彼女のワインは、豪州のコンテストで賞を獲得し、オーストラリア人からも高い評価を受ける。リーズナブルな価格帯のため、リピーターも多い。卸売業者を通じて、シドニー中心部のレストランやワインショップでも販売され、有名レストランからの指名買いも入る。また少量であるが日本へも輸出され、東京・銀座の高級すし店などでも味わうことができる。

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日本国内の入手先

2015 VERDELHO UPPER HUNTER

2015年は、エルニーニョの勢いが強く、暑く乾燥するという長期予報だったが、収穫が始まると、中盤から雨が降ると予報が一転した。アッパー・ハンターは、ローアー・ハンターと比較し気温も高く乾燥している。ぶどうも早く熟してくる。この年も、1月末にやってくる雨の前に収穫をすることが出来た。

WINEMAKING

ぶどうは機械収穫し、直ちにワイナリーに運ばれた。軽く破砕し、そして優しく搾汁した果汁は搾汁中に冷却を始める。2日後オリ引きをし、透明な果汁を約12°C前後の低温で、純粋酵母を使って発酵させた。発酵終了後は、重い澱を取り除き、酵母の澱のみを残してリーズコンタクトした。短い期間だが、これによって舌触り、テクスチャー、ストラクチャーをワインに与えるのが目的。タンパク除去、低温処理をし、最終調整はスキムミルクを使った。

TASTING

薄いストロー色にかすかな緑色が重なる。香りは非常に魅力的なジャックフルーツ、シトラス、洋ナシなどのような香りでアロマティック。滑らかな舌触りでクリーミー、同時に複雑さやストラクチャーも備えている。余韻も長く、微かな苦味が心地良い。
この2015 ヴィンテージは、今でも若々しく、熟成の特徴がわずかに見え始めてい る。ヴァデーロの新たな可能性を伺うことの出来るワイン。料理と一緒に、冷たく冷やしてお召し上がりください。

2014 SHIRAZ ORANGE

WINEMAKING

Bushfireを防ぐ為のBack Burningからの煙で、Merton Vineyardの葡萄は全て煙害を受け収穫を諦めざるを得なかった。そのため、Orangeにあるぶどう栽培農家から葡萄を購入した。

Upper Hunterから4~5時間のOrangeは、標が900m~1100m、冷涼な地域で素晴らしいぶどうが生産されている地域として評価されている。

2014年のOrangeは、異例の早いvintageで、1ヶ月以上も早い2月中旬だった。試験的な栽培をしている畑の一部のシラーズを分けてもらえることになり、美しいブドウ畑で育てられたぶどうは、色もフレーバーも素晴らしい葡萄だった。機械収穫したが粒には痛みもなく、長時間の輸送にも関わらず果汁が殆ど出ていない状態だった。

WINEMAKING

軽く破砕をした後、Cold Soakingを3日、純粋乾燥酵母を使い、徐々に醗酵を始めた。醗酵温度は、26~27℃。醗酵終了前の最高温度が29℃。

Cap managementは、皮や種をメッシュで除きながら、丁寧な Pump overをした 。醗酵終了後、2週間のextended macerationをした。

その間は、毎日テイスティングをしワインの状態を確認する。

搾汁後、滓が大体降りたところで、簡単な滓引きをし、別なタンクへ移動し、MLFが始まるのを待った。通常であればMLFは樽内で起るのを待つが、綺麗なぶどうの良さを保つため、MLFが終了するのを待ち、SO2を添加してMLFの澱と離して樽貯蔵をしたかった。MLFは野生バクテリアによるもの。23%新樽 77%古樽。全てがフレンチ・オーク。

樽貯蔵中一度rackingしている。

ブレンド後卵白でfiningしている。

新鮮できれいな果実香、果実味を生かすため、あえて樽での貯蔵を短めにした。

TASTING

紫がかった赤、新鮮で若々しい赤色。

新鮮な果実実、自然な甘さを感じさせる。ブルーベリー、生のプルーン、コーヒー、チョコレート、モカ、シナモンや軽いペパーのようなスパイス香も感じられる。

きれいな果実味を保ちながらも、幾重にも重なるクリーミーなタンニンが滑らかに続く。

4年経った今は、新鮮な果実実を楽しめ、加えて熟成と複雑さが現れ始め、ますます今後が楽しみなワインである。

AWARD

2015年 Orange Wine Show – Silver Medal

2016年 Huon Hook gave Silber Ribbon, also one of Best Value NSW Shiraz

2017年 International Wine Challenge – Silver Medal

煙害について

ヴェレゾン後、特に収穫間近のぶどうは、ぶどうの皮の表面から煙を吸い込んでしまい、それが原因となり出来上がったワインがSmokey、そしてそれが進行するとashtrayのような臭いを放ち、飲み物としては受け入れられなくなる。

2014ヴィンテージは、2013年10月にWollemi National Parkで始まったブッシュファイアーが原因で、Merton Vineyardのブドウの収穫ができなかった。

なかなか火が収まらず、収穫時期に近ずくにつれ気温が上がり、乾燥する時期になり、火が再び広がりだした。

燃えているところが国立公園の中であること、野生動物が生殖している地域であること、そして民家が近くにあることなどから、バックバーニングという方法がとられた。

燃えては困る場所を特定し、そこから火に向かって森を燃やして、遠隔を防ぐ方法がとられた。

その結果、収穫間近で煙害の影響をもっとも得やすい時期に、その煙がアッパーハンターバレーに留まることとなった。

残念ながら、Merton Vineyardのぶどうは全て煙害を受けたため、収穫を諦めざるを得なかった。Upper Hunterからの新しいブランドとしてのデビューの計画が全て崩れ去った。2014年は特に良いヴィンテージだけあって、収穫機を畑に入れて、ぶどうを全て地面に落としたことは一生忘れられない。

煙害については、様々な研究やトライアルが行われている。しかしながら、まだ解明されていない部分が非常に多く、分析できる物質も限られ、全ての判断はワインメーカーに委ねられる。

ぶどうの段階で煙害をかぎ分けるのは、容易なことではない。AWRIによるワークショップを始め、経験あるワインメーカーたちが集まって、それぞれのサンプルを嗅ぎ分けるなど、オーストラリアワイン業界ならではの、助け合いがあった。