アレックス・レティーフ(Alex Retief)は、1990年代半ばに大学の夏季休暇を利用して帰省した際に、家族で所有する250ヘクタールの土地でブドウを植える決心をした。
ブドウ畑はガンダガイ(Gundagai)の近くに位置し、シラーズとカベルネ・ソーヴィニヨンが最初に植えられた。もともと、この250ヘクタールもの土地はレティーフ家で代々引き継がれてきたもので、主に放牧や作物を栽培するために使われていた。例年にない9月の暑さの中、彼は一から、ブドウ畑の開拓を行った。土壌はまるで岩のように固く、作業は困難を極めたが、彼にとってワイン造りのすべての工程が新鮮で心を弾ませてくれる。ワインへの情熱はこの時に培った。
彼はこれまで力を注いできた芸術の道から一転、チャールズ・スタート大学(Charles Sturt University)でワイン科学を学ぶ。学位を修得した後は、醸造家のグレッグ・ギャラガーの指導の下、University Vineyardで研修生としてワイン造りを学んだ。
2002年に研修を終え、学んだことを実践するべくためにカリフォルニアを訪れ、ワイン造りを監督した。そして豪州の収穫時期である1月に合わせて帰国し、ハンターバレーの醸造家アンドリュー・マーガンの下で働き、2003-2005年までのワイン造りに携わった。彼はその後もワインの本場であるボルドー、シャトー・デ・ラガルド(Chateau de Lagarde)で2年間、醸造所の経営に携わった。
アレックスはこれまでの経験から、「自然に近い環境づくり」を今後の目標とした。それは、自分を育ててくれた母の愛情に近いものだと思う。彼の母は常にオーガニックの食材にこだわり、彼を育ててくれた。
そして、これまでの成果が功を成し、彼がこれまで耕し、育んできたブドウ畑は2000年にオーガニックのブドウ畑として認定され、2003年にはバイオダイナミック農法を用いたブドウ畑としても認定された。前述したように、もともとこの土地は放牧地で、岩のように硬かった土壌も13年の月日が経ち、今では土を拾い上げれば、ワームがすぐに見つかるほどに栄養の富んだ土壌となった。
2008年に彼自身のワインレーベル「A.Retief Wines」を立ち上げ、NSW州の比較的涼しい地域であるタンバランバ、グンダガイ、ヒルトップスのバイオダイナミック農法を実践するブドウ畑と契約。
2016年にアレックスは豪州で最初の都市型ワイン醸造所(アーバン・ワイナリー・シドニー)を設立。彼が手がけたワインはブドウ畑と地域の特徴を表現し、ワイン造りのすべての工程がシドニーで行われ、これまでに数々の賞を受賞している。