フィリップがクルムー(Koomooloo)の畑を購入したのは1988年、しかしそのずっと以前から、ワイン造りは彼が願い続けていた夢だった。何年もの間、オーストラリアの数あるワイン産地をめぐり、綿密な調査を重ねていたフィリップがオレンジ (Orange) という産地の存在に気づいたのは、ごく偶然のことだった。たまたまオレンジの上空を飛行中に、このゆるやかな起伏のある田舎町の存在に気づいたのだ。そのオレンジで数日間にわたる徹底的な調査の後、フィリップは翌週には再びオレンジに戻り、この地域の標高と日照のバランスが、ワイン造りにほぼ完璧であることを発見した。
1988年6月、フィリップはクムルーに土地を購入し、彼のワイン造りの冒険は、いよいよここから始まることとなる。クムルーはこの地域の最高峰であるカノボラス山(Mt. Canobolas)にも近く、標高は900mと高く、土壌は赤いローム層が石灰岩を覆っている。
オレンジ、特にクムルーの畑には、フィリップが望むスタイルのワインを造るのに、細部に渡るまで完璧な環境がある。とはいえ、実際にこの土地の独特さを理解するまでのフィリップの道のりは、調査と解析の繰り返しだった。クムルーのような素晴らしい畑に、そのポテンシャルを最大限に活かせるよう注意深く働きかける。それは時には辛く、くじけそうになることもあるが、その先に見える未来はたまらなくワクワクするもので、眠るのも惜しいほどだという。
フィリップ・ショーのワインは全て、1988年から89年にかけて植えられた47ヘクタールのクムルーの畑のブドウのみから造られている。「ワインが造れるまでに畑が十分成熟するには、ずいぶん長いこと待たなくてはいけなかった。素晴らしいワインにはすべて、特にシャルドネとピノ・ノワールには、シルクのような柔らかさとテクスチャーがあるべきで、タンニンは柔らかくエレガントでなくてはいけない。私の仕事は、小手先で細工を加えていくことではなく、ワイン本来があるべき姿へと導くことだ。それこそがワイン造りの骨頂ーブドウ畑とワイン造りのマリアージュなのだ。同じ畑に10人も20人ものワインメーカーたちが、たった3-4列ずつのブドウを所有しているブルゴーニュに注目してみると、それぞれのワインの品質やスタイルに、驚くべき違いが見られる。ワインの質やスタイルを決めるのはブドウ畑だけでなく、醸造過程にもあり、その二つの融合なのだ。」
オーストラリアでワインを造り続けて40年以上、フィリップのワイン造りへのアプローチは、あらゆる側面において革新的であると同時に、厳格な品質管理をバランス良く組み合わせたものなのである。